
その小説を初めて読んだのはバイク事故で入院していた時だった。
夏目前の梅雨時にタクシーに当てられて大腿骨を折り、少なくとも 3 ヶ月は入院、リハビリも含めたら、その年はもう終わったなと思っていた。
そんな時に出会ったその小説はある種の救いになったし、なにより、再びバイクに乗りたいと思える原動力にもなった。
病は気からなのなんなのか退院が少し早まって、翌年、僕は再びバイクを手に入れることになった。
バイク熱は冷めず、さらにその5年後には、バイクTシャツブランドを立ち上げることになる。
移動手段やカッコつけでしか乗ってなかったバイクが、その小説に出会ったことで、哲学になり、思想になり、アートになった。
カワサキに跨ったまま、握り飯をほおばる白Tシャツの青年が、白いワンピースの女の子と初めて出会うあのシーン。
病院のベッドで身悶えするくらい爽やかで、清々しくて、美しくて、希望に満ち溢れたシーンだった。
今でも夏前になると無性に読みたくなる。
「彼のオートバイ、彼女の島」
読んだ瞬間から、網膜の裏側に張り付いてしまっているその青を、あの”心の状態”を、15年後に描いた。
今回のこのコレクションですが、クラウドファンディングのためのリターンアイテムとして作らせていただきました。
オートバイ雑誌『MOTO NAVI』を創刊した編集人であり、モータージャーナリストの河西啓介さんによって立ち上がったこのクラウドファンディングは、片岡作品の1ファンであり、また片岡作品によって人生が変わってしまった人間として、絶対に成功してほしい案件でした。
また、河西さん意外に、そんな雑誌を作れる人など、この先、早々出てこないだろうし、あれ程の熱量で作れる人はいないと思う。そもそも片岡先生もかなりご高齢のはずで、このチャンスを逃せばきっともうないと思っている。
大げさかもしれないけど、これが成功できなかったら、僕にとっては文化遺産レベルの損失なのです。
今回リターン品として製作させていただくアートTシャツは全部で5枚。
シリアルナンバーが刻印されます。
全て無償提供するので、僕は1円もいただきません。
クラウドファンディング成功後、支援者様のサイズに合わせて一点一点製作していきます。
TシャツサイズはXS~XLの5サイズ。
ボディカラーは白のみ(黒では色が入らないので)
長袖か半袖も選べるようにします。
【僕の技法】
この記事から初めて”白黒”のことを知る人も多いと思うので改めて説明させていただきます。
僕はシルクスクリーンプリントという版画のような技法で絵を描いている。
ただ、その使い方が僕の場合、常識から外れている(と思う)。
なぜなら、僕自身が同じような手法をしているアーティストを見たことがないし、聞いたこともないからだ。
その詳しい方法は明かせないが、漆を塗るように色を何層にも重ねていく。
刷りと乾燥を何度も繰り返し、1日~2日かけて製作されるこの技法は、すべて独学でやってきた僕の我流。
本来、量産のために使用されるシルクスクリーンを一点物の手法として使っているところが我ながら狂っていると思う。でも、調合されるカラーバリエーションはもはや無限に近く、塗り重ねて表現されたグラデーションは、油絵のように深く、水彩画のように鮮やかだ。
似ていても、同じものは二度と作れない。世界に一枚。そういうところも気に入っている。
そしてもちろんのことだけど、このTシャツは洗濯しても消えることはないので大丈夫。(よくご質問いただくので…)
ただ、この手法のコレクションは時間と手間があまりにもかかるのと、一般向けに販売…というよりは、アート作品として位置づけているため、ブランド内では「PREMIUM ART SERIES」として、置かせていただいています。
以上、とてもとても長くなりましたが、このクラウドファンディングの成功を心から応援しています。